frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
聖なる夜 1
今年のクリスマスは、どう過ごすのか?
「純情ミックス」とは一体何なのか?
まだ、公式さんがわからないので、ヒロさん中心に純情組をみんな絡めました。
無理矢理詰め込んだので、拙いですが、長靴に入ったお菓子の詰め合わせ的なものだと思ってお許し下さい。
メリークリスマス!!です。
2014.12.20投稿
そこは上條弘樹にとってはもはや馴染みの場所になりつつあった。
消毒薬の匂いの中、キビキビと忙しそうに動き回る看護師の姿が見える光景。
ふと、いつもと違うところに気がついて目を留めた。
ナースステーションに小さなサンタクロースの人形が置かれている。弘樹はその赤い帽子を横目に見ながら、声をかけた。
「すみません。」
ちょうどその時、病棟の廊下を歩いてくる白衣の野分が弘樹から見えた。
弘樹に気がつくと、ぱっと笑顔になり、早足で近づいて来る。
「ヒロさん、寒い中すみませんでした。」
「別に、ついでだから気にするな。」
いつものようにそう言うと、弘樹はボストンバッグを手渡した。
少しでも会えたからと言って浮かれているとは思われたくない。
そう思っているせいで必要以上にそっけない声になってしまうのだが、それでも野分はニコニコと笑っている。
「ありがとうございます。」
その笑顔に弘樹は一瞬見惚れかけた。
「どうかしましたか?」
「なんでもねぇ、仕事頑張れよ。」
弘樹は慌てて振り向いた。
赤くなりそうな顔を野分に見つからないうちに帰ろう。
そう思い、鞄を握りしめる。
「えっ!?かみ、じょう?」
弘樹が振り向いた先には小柄な少年が立っていた。
名前を呼ばれて視線を向けた弘樹と目が合うと、まるで蛇に魅入られた蛙のように固まっている。
誰だ?
弘樹は眉を寄せてジッと顔を見た。
高校生か?いや待てよ、俺のことを知っているのか?なら、高校生じゃなくて、、、まさか、、、ウチの学生か?
弘樹の背中に冷たい汗が流れる。
ひょっとして、今の、野分とのやりとりを見られたんだろうか。
さっきの野分との会話を思い出してみる。
特におかしなことは、言ってない、、よな。
必死に頭を巡らした弘樹は目の前の顔が記憶の片隅に引っかかっているのに気がついた。
ん?ちょっとまて、こいつ、、、どこかで見たことがあるような、、。
「お前、、確か、」
二人で顔を見合わせていると、別の声が病室のほうから聞こえてきた。
「美咲、下の売店に行くなら買ってきて欲しいものがあるんだけど。」
その声に弘樹は耳を疑った。
ゆっくりと廊下に目をやると、眼鏡をかけた背の高い男が歩いて来る。
弘樹は息をのんだ。
あの顔を見るのは何年ぶりだろうか。
それでも、見間違う筈がなかった。
、、、タカヒロ。
なんで、ここにいるんだ?
「美咲、この方は?」
二人で向かい合って立っているところにきたタカヒロは不思議そうに聞いている。
ミサキ?
男にしては変わった名前だな、、。ん?みさき、、美咲?!
高橋美咲!
思い出した。この学生、この前やっと俺の文学の単位を取れた四年生だ。
あの、普通は一年次で終わるやつをズルズルと取り損ね続けていた学生。
「兄ちゃん、、この人は大学の先生だよ。」
兄ちゃんって、、。
「えっ、先生?」
弘樹が状況を飲み込む前に、タカヒロは柔らかい笑顔から、すっと真面目な保護者の顔に変わり、姿勢を正した。頭を下げて挨拶を始める。
「髙橋美咲の兄です。いつも弟がお世話になっております。」
秋彦が弟命と称していたタカヒロの、「弟」?
こいつが例の弟なのか?
高校生かと思うくらいにちんまりしたこいつが?
弘樹は二人の顔をかわるがわる見た。
全く似てねえ。
驚いている弘樹に追い打ちをかけるような会話が聞こえてきた。
「あ、それから上條先生はウサギさんの幼馴染なんだって。兄ちゃん知ってた?」
「え?ウサギの?そうなんですか?」
ウサギ、、。
そう言えば、タカヒロからはウサギと言うあだ名で呼ばれていると秋彦が言っていたことを弘樹は思い出した。
あいつのどこがウサギだって言うのかね。なんだよ、そのあだ名は。秋彦は、、秋彦だろーが。
そんな風に弘樹が思っていることなど知るわけもなく、秋彦の知り合いと知った途端に親しそうな顔を向けてきたタカヒロに、弘樹も自己紹介をした。
「初めまして。上條弘樹といいます。」
名前を聞いたタカヒロはさらに微笑みを深くした。
「あ、あなたが、弘樹さんでしたか。初めまして。ウサギから、よく話はうかがっていました。いやー、こんなところで会えるとは。」
弘樹もこんなところでタカヒロに会うなんて、それこそ夢にも思わなかった。
そのせいか思わず口が滑った。
「いえ、こちらこそ。秋彦からいつもあなたの話を聞いてました。」
「ええ?俺の話ですか?なんだろう、恥ずかしいな。」
タカヒロは穏やかに笑う。
その笑顔に弘樹の胸の奥が微かに痛んだ。
別にこいつが悪いわけではない。
分かっている。
分かっていても、長い間秋彦を苦しめていたヤツだという思いがふつふつと湧き上がってくる。
初めて近くで見るタカヒロの顔。
弟へ向ける視線は確かに優しいが、それだけではないようにも弘樹には見える。
そこまで考えて、弘樹は、自分が案外とタカヒロをよく思っていないことを再確認して苦笑いした。
いつまで引きずってるつもりだよ。
だけど
今、タカヒロにとっての秋彦はなんだろうか?
秋彦にとって、タカヒロは、なんだろうか?
弘樹の頭の中をそんな思いがグルグルと回り始める。
二人の今の関係を弘樹は秋彦からハッキリと聞いたことはない。けれど、秋彦には一緒に暮らすような相手ができた以上、タカヒロは単なる友人となっているのか?
秋彦が長い間、大切に、大切にしてきた宝物。
「今日は上條さんはお見舞いか何かですか?」
自分への問いかけに、考えこんでいた意識がまた浮上した。
「あ、いえ、、。」
そりゃそうか。
弘樹は苦笑いをした。
自分にとっては日常的だったから忘れていた。自分くらいの年齢の男が小児病棟にいたら、いったいどんな風に見えるのかということを。
なんと答えるべきか、と考え始めたところに後ろから突然呼びかけられた。
「ヒロさん。」
振り返ると野分が立っている。
「お前、仕事に戻ったんじゃなかったのかよ、、、。」
どうやらボストンバッグをロッカールームに置いて戻ってきたところらしい野分は弘樹の問いかけを無視すると、逆に質問してきた。
「ヒロさん、、高橋さんと知り合いなんですか?」
野分の声が、いつもより僅かに固くなる。
「野分、この人は秋彦の学生の頃からの知り合いなんだ。それから、こっちは、ウチの大学の学生だ。」
「、、宇佐美さんの、、。」
一瞬、野分の顔から表情が消えかけた。しかしここがナースステーションの前ということを忘れてはいないようで、すぐにいつもの医者の顔に戻るとにっこりと笑いながら挨拶をした。
「宇佐見先生には、いつもウチのヒロさんがお世話になってます。」
ポカンと口を開けた二人の顔に弘樹は慌てて野分の腕を引っ張った。
「てめぇはいらんこと言ってねぇでさっさと仕事に戻れよ。」
「はい。じゃあ、ヒロさんは気をつけて帰って下さいね。」
「ガキじゃねえんだから、そんなに心配すんなって。ほら、早く行けよ。」
「あ、それから夕飯もきちんと食べてくださいね。」
「野分、わかった、食うから、ちゃんと食うから。もうとにかく仕事に戻れって。」
さらに何か言おうとした野分の背中を押しやるようにして、病棟へと追いやった時には、弘樹はゼーゼーと肩で息をしている始末だった。
「上條、、先生、、、ヒロさん?」
ポツリと呟いた美咲の言葉を聞き逃さずに、弘樹はその肩をガシッと掴んだ。
「高橋。」
眉を寄せた弘樹は色素の薄い瞳で射抜くように高橋を見つめると、地を這うような声で言った。
「頼む。今のことは忘れろ。」
その必死の顔と迫力に目を丸くした美咲は、何度も何度も首を縦に振った。
「悪い。」
そう言うと弘樹は手を離して、深くため息をついた。
全くよりによって、自分の大学の学生にこんなところを見られるなんて、思いもしなかった。
ったく、野分のやつ。
それから、タカヒロを見て浮かんだ疑問を口にした。
「俺のことより、二人はどうしてここへ?いくらなんでも高橋はもう小児科じゃねーよな?」
「上條先生、、それって、俺のこと小さいって言ってるんじゃあ、、、これでも毎年背は伸びて、、。」
なにやらブツブツとぼやく美咲の横でタカヒロが弘樹に説明をしてくれた。
「真浩が、あ、俺の子どもがここに入院してるんです。」
子ども?
そうか。タカヒロ、結婚したのか。
子どもがいるんだ。
「お子さんの具合は大丈夫なんですか?」
「はい、おかげさまで。草間先生にもお世話になりましたが、もうすぐ退院です。クリスマスは家族で過ごせそうです。」
タカヒロはそう言うと、思い出したように美咲の方を見て言った。
「美咲、24日はお前もうちに来るだろ?」
「えっ?」
突然話を振られて、美咲は目を丸くした。
「真浩も退院できそうだし、家族水入らずで過ごさないか?」
「あ、あの、、兄ちゃん、、俺、その日はバイトかもしれないし、、、約束はちょっと無理だから。」
しどろもどろになる美咲の顔を弘樹はじっと見ていた。
コイツのこの焦った顔。やっぱりどこかで見たような気がする。
「何か予定があるのか?できればこっちを優先して、予定しておいてくれよ。真奈美も真浩も、クリスマスを美咲と過ごしたがってるから。」
穏やかながらも、有無を言わせない物言いに、弘樹はタカヒロから受ける印象が秋彦から聞いた話と違うような気がして首を傾げたくなった。
まあ、どっちにしても、俺には関係ねえがな。
「じゃあ、俺はこれで失礼します。」
二人に声をかけて会釈をする。
ここを立ち去れば、きっともうタカヒロと会うことはない。
そう思って弘樹はエレベーターホールへと踵を返した。
「あーっ!俺も売店に行くんだった。」
最初の目的を思い出したのか、美咲も慌てて弘樹の後ろを歩き始めた。
美咲がエレベーターホールで携帯電話の電源を入れた途端に待っていたかのように呼び出しを示す振動が始まる。
「うわっ」
携帯電話を手から落としそうになりながら、着信画面を見た美咲が、げっ、と慌てたような声を出して電話に出た。
「もしもし、ウサギさん?うん、だから、もうすぐ帰るから。え?迎えに来なくてもいいから。だってまだ仕事終わってないんだろ?」
聞こえてきた会話に、弘樹はようやく思い出した。
こいつ、あの時に大学のポストの前で会ったちんまりしたやつか!
秋彦と一緒に住んでいる子だ。
もう一度美咲の顔を見る。
こいつがねえ、秋彦の趣味も変わったんだな。タカヒロとは似ても似つかない、、って、、え?待てよ。てことはなんだ?
秋彦の同居人って、、タカヒロの弟なのか?
どういうことなんだ?
驚いて、じっと見ていると電話を終えた美咲と目が合った。
「、、、、、。」
「、、、、、。」
お互いに顔を見合わせジッと見たあとに、同時に目を逸らした。
エレベーターの到着を示す灯りが光りドアが開いた。美咲が弘樹に先を譲ろうとし、弘樹はそれを断るという一幕がありつつも、結局二人は一緒に乗り込んだ。
下降するエレベーターの中はこんな時に限って他に誰も乗ってなくて、気まずい雰囲気の中、何を話すでもなく、階数を表す数字をひたすら睨みつけながら、弘樹は考えていた。
もしかして、高橋は秋彦とクリスマスの約束をしていたんじゃないだろうか。
横顔をそっと覗き見ると、困ったような顔をして俯いている。
さっきのタカヒロとの会話の感じだと、こいつも秋彦とタカヒロの板挟みにあって、苦労してるのかもしれないな。
大学生にしては、ずいぶんと子どもっぽく見えるけれど、見た目に反して大きな悩みを背負っているようなこいつを、秋彦はちゃんと分かっているんだろうか、と弘樹は思わず心配になったけれど、その考えをすぐに自分自身で打ち消した。
きっと秋彦は分かっている。わかっていても、それでも二人でいることを望んでいるんだろう。
チン
エレベーターが止まりドアが開いた。
弘樹が降りた後から、美咲も降りて、二人は夜間出入り口へと向かう人気のない通路を無言で歩きだした。
売店の手前で立ち止まると、弘樹は美咲のほうを向いた。
「高橋。」
「は、はいっ」
呼び止められるとは思っていなかった美咲は声を裏返しながら、条件反射的に直立不動のポーズになった。
「あのさ、」
何を言われるかと少し伏目になって待機していた美咲だったが、いつもと雰囲気の違う弘樹を見て、思わず体から力を抜いた。
美咲は思い切って視線を上げて見た。
いつも大学で見る姿はよく言えば切れ味がいい、悪く言えば取りつく島もないほどに、はっきりとした話し方をする。だから冷たい人という印象を持っていた。それなのに、今はなにやら口ごもり、困ったような赤い顔をしている。
なんだろう、、ちょっと、可愛いとこあるんだな。
鬼の上條の意外な一面に驚いていると、思い切った様に真っ直ぐ美咲の顔を見て、聞いてきた。
「高橋、もしかして、お前が秋彦と一緒に住んでるのか?」
「え??」
思いがけない方向からの、しかし直球の質問に美咲は飛び上がりかけた。
「一緒にっていうか、あの、同居は同居なんですけど、ウサギさんは俺の大家さんなだけで、俺は単に居候なんです。」
真っ赤な顔をして答える美咲の顔を見た弘樹は穏やかな声で言った。
「高橋、秋彦のこと、よろしくな。」
その顔は美咲が今まで見たことない表情をしていた。それは鬼というよりはむしろ、、。
「え?!あ、あの上條先生?」
「頼んだぞ。」
そう言うと、驚いた美咲をそのままにして、弘樹は夜間出入り口へと歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を見送りながら美咲は一人で混乱した頭を抱えていた。
「えっと、こういうの、、なんて言うんだっけ?」
鬼に、、金棒?
違う。
渡る世間は鬼ばかり?
いや、これも違う。
首を傾げながら美咲は売店に入っていった。
教え子を悩ませているとも知らずに、病院を出た弘樹は張りつめたような冷たい空気の中、白い息を出しながら歩いていく。
街のあちらこちらでイルミネーションが滲むように瞬いている。
弘樹は風の冷たさにコートの肩をぶるりと震わせた。
クリスマスまで、あと少し。
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