frown
当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。
聖なる夜 3
聖なる夜 2 の続きです
「お世話になりました。」
患者さんが退院するのを見送るのはいつ見ても嬉しい。挨拶に来た三人を見た野分の顔も笑顔になっていた。
平日ということで孝浩の代わりに真浩の荷物を運びに来ていた美咲と目が合った野分は首を傾げた。
この前、廊下で会った時にも思ったけれど、美咲くんとは、前にどこかで会ったことがあるような気がする。
どこだろう?
野分が悩んでいる間に退院の挨拶も終わり、真奈美に抱かれた真浩は、看護師長さんに小さな手を差し出して、一生懸命に握手をしている。
「クリスマスにおうちに帰れてよかったねー」
ナースの一人がそう言うと真浩はニコニコと笑った。
「サンタさんー!」
「そうだね。今日、サンタさん来るね。」
「みたきも!!」
「みたき?」
ナースがキョトンとした顔をすると、真奈美が笑いながら説明した。
「美咲くんが来てくれるのを楽しみにしているんですよ。」
確かによくなつかれている、と野分は二人を見た。
今だって荷物があるからと諦めてもらっただけで、本当は真浩は美咲に抱っこして欲しいとかなり駄々をこねていた。
真浩の家族はいつ見てもニコニコと楽しそうだ。こういう温かい一家は、イベントも家族で過ごすのが普通なのかもしれないけれど。
彼は、本当はどう思っているんだろうか?
俺には縁がなかったから、分からないだけ?
野分は眩しいものを見るような気持ちで三人を眺めた。
あの年頃の男の子なら、家族で過ごすよりは、恋人と過ごしたいだろうに、そう思って野分が美咲の顔を見ると、なんとなく困ったように笑っている。
野分自身は望んだことはないけれど、家族水入らずのクリスマスはきっと素敵なものだろうとは想像できる。それでも、自分自身はいつだって、たった一人、ヒロさんとゆっくり過ごせたらいいと思っている。
もし、美咲くんに恋人がいるのなら彼だってきっとそう思っているんじゃないのか?
そう思った野分は、一緒に過ごしたいと願っている恋人とクリスマスを過ごすことができない自分を省みて思わず苦笑いした。
人の心配してる場合じゃないな。今年のクリスマスもまたダメだった。
野分はそっとため息をつく。
最初から24日は仕事が入ってしまっていて、そのことを伝えた時、弘樹は表情を変えることもなかった。
「ん。分かった。仕事頑張れよ。」
読んでいた本から顔も上げずに、そう言った。
まるで
最初から期待なんかしていなかったように。
ナースステーションの中に飾られているサンタクロースの人形をボンヤリと見ながら、野分はその時の弘樹の顔を思い浮かべていた。
きっと、そうなんだろう。
期待しなければ、ガッカリもしないですむから。無意識にヒロさんはそういう考え方になっているんじゃないだろうか。
本当は二人で過ごしたい。
例え一緒に暮らしていても、特別な日だからこそ二人で過ごしたいと思うのに。
「野分。」
津森が後ろからカルテで野分の頭を叩いた。
「ボンヤリしてんじゃねえぞー。クリスマスイブだろーが、何だろーが、俺たちのやることは同じだ。」
「すみません。」
「ほら、行くぞ。」
叩かれた頭をさすりつつ野分が歩いていると、エレベーターホールの前の真奈美と美咲の会話が聞こえてきた。
「ねえ、美咲くん。本当に今日、宇佐美さん呼ばなくていいのかな?お見舞いもたくさんいただいてるし。」
その言葉に野分の足が止まった。
両手に荷物を持った美咲は必死になってエレベーターのボタンを押そうとしながら答えている。
「ウサギさん、今日は約束があるから退院のお祝いに行けなくて申し訳ないって言ってました。」
「約束って、ひょっとして、彼女とデートかしら?」
そう言う真奈美の言葉に顔を真っ赤にした美咲の声は思わず大きくなっていた。
「いや、今日は上條先生と約束してるって言ってたから。」
その声を聞いた野分はさっとエレベーターホールへと行くと下へ降りるボタンを押した。
「あ、すみません。」
頭を下げる美咲に野分は笑顔で問いかけた。
「美咲くん、今の話は本当ですか?」
「え?」
キョトンとした美咲に野分はもう一度聞く。
「今日、宇佐美さんとヒロ、、上條さんが会うって本当ですか?」
「あ、あの、、。」
笑顔なのに、妙に迫力のある野分の雰囲気にのまれた美咲が口ごもっている間にエレベーターの到着を知らせる灯りがついた。ドアが開き三人が乗り込むと、野分は閉まりかけたドアを手で押さえた。
「すみません。大事なことなんで、教えて下さい。」
美咲は、今までこんなに怖い笑顔を見たことがないと思いながら答えた。
「あの、、今日の夜、上條先生にウチで原稿の下読みをしてもらうって、、、。」
「そうですか。ありがとうございます。」
野分は、一瞬暗い瞳を見せた後に、また、にっこりと美咲に笑顔を見せると、エレベーターのドアから手を離した。
エレベーターはようやくドアを閉じて、下がり始めた。
下降していくエレベーターの中で、美咲は今の出来事の意味を必死になって考えていた。
草間先生って、上條とどういう関係なんだ?
なんであんな顔をしたんだろう?
だいたい、ウサギさんと上條は本当に単なる幼馴染みなんだろうか?
あの人嫌いなウサギさんが、自分から家に呼ぶくらい仲がいい人を、美咲は他に知らない。
そして、前に言ってた「ただならぬ仲」って、一体どういう意味だったんだろう?
エレベーターが下降するにつれて、美咲の頭の中の疑問が増えていく。
エレベーターのドアが開き、三人は正面玄関へと歩き出した。
病院のロビーには大きなクリスマスツリーが飾られている。
今日はクリスマスイブ。
大切な人と過ごしたいと願う日。
「みーたーきーー!」
クリスマスツリーを見上げて、足が止まっていた美咲に真浩が呼びかける。
美咲は小走りで二人の元へと行った。
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