frown
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聖なる夜 5
聖なる夜 4 の続きです
イベントの日ほど、急患も多い。救急搬送されてきた患者の処置も容体もやっと落ち着いて、野分が外来から病棟の方へ戻れたのは、日付けが変わりそうな時間だった。
それにしても、夜が更けてから、急に怪我人が増えたと思っていたら、どうやら外は雪が降っているらしい。
ヒロさん、寒くないかな。
そう思ったとき、弘樹が一人ではなく、秋彦と二人で楽しそうにしている様子が浮かんできてしまって、野分は今日、何度目になるかわからないため息をついた。
「のーわきっ!」
後ろから津森に呼び止められて、立ち止まる。
「お疲れ。せっかくのクリスマスイブなのに、1日仕事になっちゃって残念だったな。」
「いえ、大丈夫です。」
津森は野分の顔を覗き込んできた。
「んー、でもお前、何かおかしいぞ。どうした?」
「え?」
「どうせまた上條さんだろ?」
茶化しながら津森が言うと、いつもなら言い返す野分が珍しく黙りこんでしまった。
「なに、本当に上條さん、どうかしたのか?」
「いえ、なんでもないです。」
「野分。」
津森の声が変わった。
「仕事中にそんな状態でいられるのは迷惑だ。」
冷たい声で野分の目を見つめながら言う。
「、、、すみません。」
野分は自分の不甲斐なさに唇を噛みしめながら頭を下げた。
「少し休憩やるから、さっさと切り替えてこい。」
その言葉に野分は一瞬ポカンとした後、勢いよく、はい、と返事をすると小走りになって中庭へと通じる廊下へと行った。
「こら、廊下を走るんじゃねえぞ。」
そう言いながら津森も煙草を手に歩いて行く。
上條さん、クリスマスイブになーにやってんのかねえ。
暗い廊下を歩きながら、津森は上條の顔を思い浮かべる。
いつもなら、野分が仕事だからって自分だけ遊びに行ったりするようには思えないんだけど。
そこまで考えて津森は自分が今まで上條に言ってきた言葉を思い出した。
まさか、本当にあの人の我慢も限界になったんだろうか?
確かに寂しそうな表情を時折見せてはいたけれど、それでもあの人は野分を待っているとばかり思っていたのに。
目の前を走っている野分の後ろ姿に向かって津森は苛立つように舌打ちをした。
廊下から、中庭に出た野分は庭全体に雪が積もっているのを見て驚きながらも、そのまま白い息を吐きながら携帯電話の電源を入れた。
携帯電話の画面に現れた弘樹の寝顔を思わず指で撫でる。
ヒロさん、、、、。
それから、弘樹の携帯電話を呼び出す。
呼び出し音が鳴り響く。
もう、寝ちゃってるのかな、、。
諦めかけた時、電話が繋がった。
「ヒロさん、あの、」
話しかけようとした野分の耳に聞こえてきたのは弘樹の声ではなかった。
「もしもし、」
弘樹ではなかったが、誰の声なのかはわかった。
心なしか硬い声になりながらもなんとか落ち着いて話す。
「もしもし、草間です。宇佐見さんですよね?あの、ヒロさんは?」
「すまない。弘樹は酔って寝てしまったんだ。雪も降ってきたから、今夜はうちに泊まらせるよ。」
「え、あの、そんな、、俺が迎えに。」
「今日は多分タクシーも捕まらないだろう。俺も飲んでしまってるから、送ってやれないんだ。じゃあ、そういうことで。」
「え、あの、、宇佐見さん、、」
呼びかけに、答えることなく一方的に切れた電話を握りしめたまま野分は立ちつくしていた。
白衣の肩に、黒い髪の毛に、雪が薄く積もり始めた。
ポケットに携帯電話を落とし込むと野分は空を見上げた。
真っ暗な夜の空から、音もなく白い雪が降ってくる。いつもの中庭の木々も雪が積もって、まるで別世界のようだ。
ぶるぶると頭を振ると自分の頭から雪が落ちてきた。肩の雪も払って、病院の中へと戻ろうとした野分の目の前に煙草を咥えた津森がいた。
「どーした?大好きな上條さんの声だけでも聞けたか?」
「いえ、、ヒロさんはもう、寝てました。」
「え?じゃあ、お前、今、誰と話してたんだよ。」
津森の問いかけを無視して野分は病院の中へと入っていってしまった。
その後ろ姿を見ながら煙草の吸い殻を携帯灰皿の中へと押し込んだ津森が白衣のポケットに両手を突っ込みながら大きなため息をついた。
「勘弁してくださいよ、、上條さん。」
そう呟くと、しょぼくれた後輩を叱咤激励する言葉を探しながら、津森も病院の中へと戻って行った。
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