忍者ブログ

frown

当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

金木犀

金木犀の花言葉・・・謙虚、初恋、真実の愛、陶酔

2014.10.3     pixiv投稿


開け放った窓から入ってくる爽やかな風の中に、ほのかに甘い花の香りが混ざっている。

講義のない時間を使って、研究室でPCに向かって論文を打っていると、突然ドアが開いた。
「誰だー?ノックしろって、、、秋彦かよ。」
入って来た秋彦は勝手に椅子に座ると
「弘樹、コーヒーでいいからな。」
当たり前のようにそう言って、煙草を出した。
「秋彦、てめえは何様のつもりだ?」そう言いながら、俺は立ち上がってマグカップを二つ出すと、コーヒーを入れた。
「今日はなんだよ?また〆切破って逃げてんじゃねーだろーな?」」
灰皿とマグカップをテーブルに置きながら顔を見るが、寝不足という訳でもなさそうだ。
「いや、単に暇つぶし。」
秋彦はもう本棚から出した本を読み始めていた。
「人の職場に暇つぶしに来るんじゃねーっていつも言ってるだろ。」
俺は自分の分のコーヒーを飲みながら、またデスクに戻って論文を打ち始める。
俺が叩くキーボードの音と、秋彦の読んでいる本のページをめくる音だけになった。
別に何を話すわけでもなく、二人でこうしていられるのも昔と変わらない。
しかし、研究室に来る回数が、ここ何年か目に見えて増えた。
理由は、どうやら秋彦の同居人がこの大学に入ったから、、、らしい。
別に理由なんてなんでもいいけどな。
俺のところに秋彦が来るのに、理由なんてなくてもいい。
俺はコーヒーを啜ると、また論文に頭を切り替えた。


一区切りついて、椅子の背に寄りかかる。
立ち上がって窓の外を見ていた秋彦がドアのほうに向かった。
「帰るのか?」
「いや、すぐ戻る。」
少しして、小さな茶色の紙袋を手にして戻ってくると、デスクの上に置いた。
「なんだよ?」
「コーヒーのお礼。最近、学生の間で評判になってるらしいから。お前にやる。」
ずっしりと重くて熱い袋の中を覗き込むと、鯛焼きが入っていた。
「お、これすぐそこのか?確かに美味かったぞ。」
「弘樹、鯛焼き好きだったのか。」
「、あ、まあ、な。」
「知らなかった。弘樹が好きなものだったんなら、また持ってくる。」
「また来るのかよ。」
「当たり前だろ。じゃあな。」
そう言って帰って行った。
廊下から、秋彦と誰かの話し声が聞こえてくる。
あれ、そーいや秋彦、鯛焼きなんて、いつの間に買って来たんだ?
秋彦に出したマグカップと灰皿を片づけて、何気無く窓の外を見ると、秋彦が誰かと歩いているのが見えた。
前にポストの前で見た子か?
見覚えがあるような、ないようなその子の後姿を見る。
あいつ、、、ずいぶんと好み変わったな。

ま、俺も人のことは言えない。

デスクに戻った。
鯛焼きの入った紙袋を見ていると、野分を思い出した。

先週、俺が鯛焼きを買って帰った時には、次の日に野分が鯛焼き屋に行きたがった。
結局二人で鯛焼きを買いに店に行ったら定休日で、ずいぶん野分がガッカリしていたっけ。

どんだけ鯛焼き食べたかったんだよ、あいつ。

これは野分に持って帰ってやろう。

俺はコーヒーを一口飲むと、また論文に向かった。

**********

午後の最後の講義の後に、熱心な学生に長々と質問されて、教室を出るのが遅くなってしまった。
自分の研究室のドアを開けると、見覚えのある背中がある。
「宮城教授〜、いない時に勝手に入らないでくださいよ。」
「気にすんなよー。俺とお前の仲だろ?」
「だから、どんな仲、、、」
振り向いた教授が手に持っているのは、もしかして?
「それ、まさか、、、。」
「上條、この鯛焼き美味いなー。」
「何、勝手に食べてんですか!それは、のわ、。」
「え、、?」
「、、何でもないです。」
デスクの上の紙袋の中を見ると、半分に減っていた。
「そんなに腹減ってたんですか?」
溜息とともに、そう言いながら、俺は自分のマグカップを持って立ち上がった。
「あ、上條、俺もコーヒーな。」
なんなんだよ、どいつもこいつも。ここは喫茶店じゃねーってんだ。
「はい、どーぞ!」
教授の前にマグカップと灰皿を置いた。
「お、悪いなー。」
教授はコーヒーを飲みながら、灰皿と俺の顔を交互に見た。
「上條の彼氏ってさあ、煙草吸うのか?」
「はぁ?なんのことですか?」
「だから、草間君だっけ?煙草吸うのか?」
「あいつは煙草なんて吸いませんよ。」
「ふーん。」
教授はポケットから煙草を出して火をつけた。
「じゃあ、元彼が煙草を吸うやつだった、、かな。」
何気ない一言に、俺は固まった。この人は何を言おうとしているんだ?
教授は俺の方を横目で見ると、ニヤリとした。
「図星だな。大丈夫、大丈夫。草間君には言わないから。」
俺は、教授の前からマグカップと灰皿を取り上げた。
「くだらないことばっかり言うんなら、とっとと出てって下さい。」
そのまま下げようと振り向いたところを背中から抱きしめられた。
「上條〜、そんな冷たいこと言うなよ〜。まだ飲み終わってないのに〜。」
「そっちが先に変なコト言ってきたんじゃないですかっ!離れて下さいよ!」
「悪かったよ。謝るから。な?」
俺はもう一度マグカップと灰皿をテーブルの上に置いた。
「本当に、鯛焼きのことといい、いいかげんにして下さい。」
「鯛焼き、お前は食べないのか?」
教授は紙袋を見ながら聞いてきた。
「俺は、家で食べますから。今日は早く仕事を終わらせたいんで、邪魔しないで下さい。」
そう言うと俺は資料を取り出して、印刷機に向かった。
「そっか、、、。悪かったな上條。ごちそうさま。」
そう言ってコーヒーを飲むと教授は出て行った。
珍しいこともあるものだ。

やっと静かになった研究室で、俺は黙々と仕事を続けた。

「できた。」
壁の時計を見る。もう、そろそろ野分も帰ってくる。
印刷物を並べ、電気を消して研究室を出たところで、宮城教授とぶつかりそうになった。
「どうしました?俺、もう帰りますけど、、。」
教授は少し気まずそうに
「上條、さっきは、勝手に食ったりして悪かったな、、。」
そう言って茶色の紙袋を渡してきた。
温かい。
まさか、わざわざ買いに行ったのか?
「いや、そんないいですよ。」
そう言って返そうとした手は、押し戻された。
「いや、本当に、悪かった。持って帰って、彼氏と食べろ。」
言うだけ言って、自分の研究室に入っていってしまった。

二つの紙袋を持ったまま、俺は少し途方にくれながら歩き始めた。


いくら、好きだと言っても、野分こんなにたくさん鯛焼き食えるのか?

 

**********

マンションのそばまできて、部屋の窓を見上げると、明かりが見える。
野分。
思わず早歩きになった。
部屋のドアの前で、鍵を出すのさえまどろっこしくなる。
「ただいま。」
「あ、おかえりなさい。」
嬉しそうな顔で玄関まで出てきた野分に持っていた袋ごと抱きしめられそうになった。潰れる、と思ったら、直前で俺が持ってる袋に気がついたようで、体を離した。
「なんですか?これ。」
「鯛焼き」
俺は二つの紙袋を野分に渡しながら、靴を脱いだ。
げた箱の上に俺の渡した紙袋を置いた野分にやり直しのように抱きしめられて、キスをされた。
「なんで、二つもあるんですか?」
「貰ったんだ。」
そう言って洗面所に行った。
手を洗い終わって、リビングに入ると、なぜだかひどく機嫌の悪くなっている野分がいた。
さっきまでは、機嫌よかったよな。
手を洗っている間に何が起きたんだ?
「野分、腹減ってんのか?」
テーブルの上には夕飯が並んでいた。
「ヒロさん。」
ソファーに座って見上げてくる黒い目に、いつも俺は落ち着かない気分にさせられる。
「どうした?」
「貰うにも限度があります。」
「何がだよ。」
野分の視線の先には、二つの茶色の紙袋があった。
やっぱり、いくら好きでも、こんなにたくさんは食べきれないよな。
「無理だったか?」
「そうですね。嘘をつくなら、もっとマシな嘘にして下さい。」
なんのことを言ってんだ?
「野分、、、嘘ってなんだ?」
「だから、鯛焼きのことです。」
「嘘、ついてねーけど。」
野分がはぁっと大きなため息をついて立ち上がった。
「ヒロさん、こんなにタダであげるような鯛焼き屋、あるわけないです。もし、本当なら、それはヒロさんに下心があるからです。」
「野分、ちょっと待て!」
近づいて来た野分に慌てて言った。
「待ちません。」
そう言うと、強く抱きしめられた。
「俺の話をちゃんと聞け。」
「だって。」
「鯛焼き屋じゃない。」
俺の言葉に野分の動きが止まった。
「あの、鯛焼きはな、秋彦と教授に貰ったんだって。アホ!」
「え?」
野分は俺を抱きしめている腕の力を少し緩めると、俺の髪の毛に顔を埋めた。
「本当だ。」
「お前は、、人の話を、聞けよ。」
ていうか、何で判断してんだ、コイツ。
まさか、俺についてる匂い?
こいつは犬か?
もう一度俺を抱きしめながら、野分が聞いてきた。
「いつものことなんですか?」
「何が、だよ。」
「宇佐見さんと、宮城教授です。」
野分の目が、また茶色の袋の方へと向いている。
「今日はたまたまだって。」
「そうですか。」
「秋彦は、いつも飲んでるコーヒーのお礼だって、持ってきたんだよ。」
「いつも飲んでる、、。」
「教授は、俺が置いておいた鯛焼きを勝手に食べてたのを怒ったら、お詫びに後から買ってきたんだよ。」
「勝手に食べた、、、。」
「もう分かっただろ?早く飯に、んんっ、、ん」
俺の唇は塞がれた。
話しかけている途中に重ねられた唇の開いていた隙間から、するりと熱い舌が口腔に入りこんでくる。
驚いて一瞬逃げた俺の舌も、結局はいつものように野分の舌に絡めとられて、吸われていく。
頭の奥から痺れてくる。
野分。
熱い吐息とともに、互いに味わうかのように、俺も何度も何度も夢中で舌と唾液を吸い上げる。それでも零れた分が口の端から、細く伝わる。まるで甘露のように際限なく貪っているうちに、止まらなくなる。いつだって、なにがなんだかわからなくなってくる。
息が苦しくなってきて、膝の力が抜けそうになった。思わず野分の首に腕を回して、しがみついた。
ようやく、唇がゆっくりと離れていった。
「ヒロさん、、、ご飯にしますか?」
こいつは、本当に、、。
「のわ、き、、、」
俺は野分に奪われて足りなくなった息を吸いこむと、やっとの思いで息を整えて、顔を上げた。
「食えるかよ、、、。」
テーブルの上に並んでいる夕飯も、鯛焼きも、、、きっと冷めてしまう。
でも、もう無理だ。

「ここでやめんなよ、馬鹿。」
久しぶりの野分の体温を感じながら、自分から、野分の首筋に顔を寄せた。


昼間の暑さが嘘のように、窓からは冷たい風が入ってくる。


金木犀の甘い香りを含みながら。

 



 

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

プロフィール

HN:
さるり
性別:
女性
自己紹介:
ヒロさん溺愛中

最新記事

(07/17)
(07/17)
(07/17)
(07/17)
(07/17)

P R

忍者カウンター

Copyright ©  -- frown --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]

javascript:void(0); javascript:void(0);