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当ブログ、「frown 」は二次創作テキストブログです。 純情エゴイストが好きすぎて、その想いをひたすら吐き出しております。 女性向け、同人・BL要素が含まれておりますので、閲覧の際には何卒ご注意ください。 原作者、版権元、など公式のものとは一切関係ありません。 ブログ内の文章の無断転載・引用はお断りします。

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ニャンニャンニャンの日

猫の日にあわせて書きたかったけど、間に合いませんでした。せっかくなのでup。


                       2019.2.23


 マンションへとあと少し、というところで、ふわりと風が流れてきた。風に運ばれてきた香りに誘われて顔を向ける。住宅街の塀の先で、ほころび始めていた梅の花がまた少し増えていた。
(春だな)
一人胸の中で呟いた俺の背中に大きな声が飛びついてきた。
「ヒロさん!」
それだけで誰なのかすぐにわかるその声と呼び名。うっかり緩みそうになった口元にぐっと力を入れて振り向いた。
「…デケェ声で呼ぶな」
「すみません。嬉しくてつい」
「アホか」
 自転車から降りた野分が横に並んで歩き出す。いつもと同じ道なのに一人で歩いている時より暖かく感じるから不思議だ。
「インフル、落ち着いたのか?」
「まだ油断できないですね」
「そっか。大変だな」
 もしかしたら、またすぐに病院から呼び出されるのかもしれない。けれど。
(俺だって嬉しいっつーの)
 そう胸の中で呟いた途端、野分が足を止めた。
「あれ?」
「どうした?」
「今、鳴き声が聞こえませんでしたか?」
「鳴き声?」
 辺りを見回してみたが特に何も見えないし、聞こえない。
「気のせいだろ」
「でも確かに」
「何の声だよ」
「ニャーンって声が」
 そう言うと野分はしゃがみこんで植込みの中を覗きこんでいる。
(何だよ。俺より猫かよ)
「あ、ほら。また聞こえました」
「俺には聞こえねぇけどな」
「そうですか。たしかに可愛い声が聞こえたんですけど」
(可愛い?俺より猫のほうがいいってか)
「あっ、また聞こえ…ヒロさん?!」
「ンだよ」
「あの、あの、」
「だから何?」
「早く部屋に入りましょう!」
「はぁぁ?」
 いもしねぇ猫を探してたお前のせいでマンションの前をウロウロしてたんじゃねぇかよ、と文句を言いながらマンションのエントランスを通り抜けてエレベーターに乗る。二人きりになった途端、野分が俺の頭を撫でた。
「何してんだよお前」
「だってヒロさん、ここにホラ」
「なんかついてたか?」
 野分の手を払って自分の手で自分の髪の毛をかき回したが特に何か付いていることはなさそうだ。
「まさか、わからないんですか?」
「わからないもなにも、何もついてねーじゃんか」
(よっぽど疲れてんじゃねーのかコイツ)
 俺の方をじっと見つめている野分が心配になってくる。
「ほら、着いたぞ」
 なにやら一人でぶつぶつと呟いている野分を押し出すと、突然ぐい、と腕を掴まれた。
「急ぎましょう」
「へ?」
 切羽詰まった様子の野分に引きずられるように自分たちの部屋に向かった。


◇◇◇◇



 13日ぶりに会ったヒロさんはあいかわらず可愛くて、俺はウキウキと浮かれながはヒロさんの顔を見つめた。
「インフルエンザとか、落ち着いたのか?」
 俺の仕事のことを気にしてくれる優しさに疲れも眠気もみるみるうちに消えていく。
「そっか。大変だな」
 その時、ニャーという声が聞こえた。
 はっきりと聞こえたのに、猫の姿はどこにもない。
「気のせいだろ」
 ヒロさんには聞こえなかったようだけど、確かにすぐそばから聞こえた。
「でも確かに」
「何の声だよ」
「ニャーンって声が」
 どこか寂しそうな声がどうしても気になる。しゃがみこんでマンションの植え込みの中を覗いてみる。そこに猫の姿はなく、今度は俺のすぐ後ろからニャア、と少し怒ったような声が聞こえた。
「あ、ほら。また聞こえました」
「俺には聞こえねぇけどな」
 どうやら全く聞こえていないヒロさんは呆れているらしく声が刺々しくなっていくけれど、俺に聞こえる猫の声はどんどん大きくなっていく。
「あっ、また聞こえ…ヒロさん?!」
 猫の声に気を取られていた俺はヒロさんの頭から出ているものに気がついて息をのんだ。
「ンだよ」
「あの、あの、」
 ヒロさんの頭にまるで猫としか思えないような耳が生えている。
「だから何?」
 本人は気がついていないみたいだけれど、これはダメだ。
「早く部屋に入りましょう!」
「はぁぁ?」
 未だに俺の耳にはニャアニャアと猫の声が聞こえ続けているけれど、こんな、こんな猫の耳がついている可愛いヒロさんを外に出しておくわけにはいかない。
 慌ててエレベーターに乗りこんで二人きりになった俺はそっとヒロさんから生えている耳を撫でてみた。
 ふわふわとした毛に覆われているその耳は作りものではなく、しっかり頭から生えているようだ。ヒロさんは急にこんなものが生えてきて平気なんだろうか。
「何してんだよお前」
「だってヒロさん、ここにホラ」
「なんかついてたか?」
 自分の頭から猫の耳が生えていることに気がついたらびっくりしてしまうんじゃないかと思ったけれど、ヒロさんの手は猫の耳の生えているところを何もないかのように通り抜けていった。
「まさか、わからないんですか?」
「わからないもなにも、何もついてねーじゃんか」
 これは、ひょっとすると俺にしか見えないのかもしれない。
 神さまからのご褒美なのだろうか。こんなに可愛い姿のヒロさんを独り占めできるなんて。
 ニャア、と咎めるような声が聞こえた。
 狭いエレベーターの中。ヒロさんにはまた聞こえてないみたいだ。
 もしかすると、この猫の声もヒロさんから?
「急ぎましょう」
 俺にしかわからない猫の声と耳をしっかりはっきりすみからすみまで確かめなければ。
 俺はヒロさんの腕を掴んで自分たちの部屋のドアへと向かった。
 ニャアニャアと抗議の声が耳元で聞こえるけれど、それどころじゃない。
 この声がヒロさんの心の声なのかどうか。あんなことやこんなことをして確かめなければいけない。
 そして、尻尾もあるのかどうか、ちゃんと見てみないと。
 興奮気味で玄関になだれこんだ俺は猫パンチを食らいながらキスをした。
 ふるふると震える耳を眺めながら。
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